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一般企業勤務の妻が、地方公務員の夫(コテツ・37歳)の体験談を聞き取って代筆/編集/公開しています。
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3年浪人。合格したのは28歳。同期は5歳年下の新卒組。
合格通知を手にしたあの日、俺は本気で「人生勝った」と思った。情報商材で100万円以上溶かして、東京の高級寿司屋を1年で逃げ出して、派遣で検品作業をして、3年浪人して。やっと辿り着いた、安定の身分。あとは普通に働いて、家庭を持って、定年まで穏やかに過ごすだけ──そう思っていた。
でも、合格して半年もしないうちに、俺は名前すら呼ばれない「実習生」になっていた。同い年の先輩は、もう5年目の中堅だった。
これは、「合格したのに、なんか思ってた感じと違う」と感じ始めた当時の俺みたいな人に向けて書いた、合格がゴールじゃなかった話だ。
合格して半年で、「あれ?」と思った

公務員試験に受かると、すぐに着任前の研修が始まる。最初の数ヶ月は座学中心で、生活も仕事も「同期と一緒」が基本の、独特の世界だった。
俺はその時、28歳。寿司屋を1年でやめて、3年浪人して、派遣を経て、ようやく入った。だから、研修仲間の中では「5歳年上のおじさん」だった。大抵の研修仲間は、新卒ストレートで入った22〜23歳。もちろん俺みたいに前職を抱えてきた人もまあ3分の1くらいはいたけど、それでも大半は学生気分が抜けていない若い連中で、研修期間は「大学のサークルが続いてる」みたいな空気だった。
俺は年齢的にもグループのまとめ役を任されて、なんだかんだ責任もあって、寿司屋時代みたいに「同期がいる」ことそのものが、最初は新鮮であたたかかった。でも──ね。合格から半年もしないうちに、俺は「あれ?」と思った。
「おい、実習生」

研修が終わって、最初の配属先に着任した。そこで、俺は「実習生」と呼ばれることになる。
名前で呼ばれた記憶が、ない。「おい、実習生」「実習生、これやっといて」「おい実習生だからお前はそういうことも分かんねえのか」ずっと、その肩書きで呼ばれた。これが、ひたすらに、悔しかった。
合格通知をもらったとき、俺は本気で「自分の人生をやっと自分でつかみ取った」と思っていた。3年浪人の末に勝ち取った、自分の身分。それがあっさり「おい実習生」と呼ばれて、名前すら覚えてもらえない。
そして実際、当時の俺は、何ひとつ満足に自分一人で仕事ができなかった。小さな判断も、上司に確認しないと一歩も進められない。「実習生だから何もできない」のは、その通りだった。だから余計に悔しかった。
同い年の先輩は、もう5年目の中堅だった

配属先には、俺と同い年の先輩がいた。「同い年なのに先輩」というのが、どういう意味か分かるだろうか。
俺が寿司屋で1年でやめて燃え尽きていた頃、その先輩はもう新卒で入って働いていた。俺が派遣の工場で検品作業をしていた頃、その先輩は現場で経験を積んでいた。俺が3年浪人で参考書をめくっていた頃、その先輩はもう「中堅の入口」にいた。俺が28歳で入った時、その先輩は28歳で「5年目の中堅」だった。
その人の仕事ぶりを見ていて、思った。──もし俺が、大学を出てまっすぐここに入っていたら、今、こうなれてたのか。悔しかった。ものすごく、悔しかった。そして同時に、はっきりと思ったんだ。
「いつまでも実習生って呼ばれてる場合じゃない。早く、ここに追いつかなきゃいけない」
媚びと言われても、俺は休日に職場に行った

俺は、休日に時間外で職場に行くようになった。気になっていた部門の業務を、勤務時間外でも見せてもらうために。正直、媚びを売ってると言われたら、否定はできない。ただ、俺の中ではこういう感覚だった──仕事を早く覚えて、一人前になりたい。それだけだった。
寿司屋にいた時のことを思い出していた。寿司屋の修行時代、俺は仕事を覚える前に逃げ出してしまった。人間関係が辛くて、暴力と叱責に耐えられなくて、1年でやめた。あの時、もう少し踏ん張れていたら。あの時、自分から人間関係を作りにいけていたら。たぶん別の景色が見えていたんだと思う。
だから今回は、行こう、と思った。土日でも、何か一つでも教えてもらえるなら、行こう、と。同い年の先輩に名前を覚えてもらえるまで、行こう、と。
気がついたら、内部昇格試験で同期トップを争っていた

そうやって2〜3年、地道に続けていたら。気がついたら、俺は研修仲間の中で、内部昇格試験をトップ争いするレベルで合格していた。
「努力した」という自覚は、正直、あんまりない。ただ、休日に職場に顔を出して、先輩に教えてもらって、飲みに連れて行ってもらって、人間関係を作って。それを地道に続けただけだった。
でも、その「地道に続ける」を、新卒で入った若い研修仲間たちはあんまりやってなかった。彼らは学生気分のまま、勤務時間外には誰も職場に来なかった。そして俺は、新卒組より「5年遅れ」のはずだったのに、いつの間にか同期の先頭グループにいた。
合格は、ゴールじゃなかった
あの日、合格通知を受け取った時、俺は「これで人生のレールに乗った」と思った。あとは流れに任せて、定年まで穏やかに進むだけ。そう本気で思った。でも、合格はスタートだった。
──と、いま俺は書いているけど、これは「合格した日の俺」には絶対に届かない言葉だ。合格した日の俺は、本気で勝ったと思っていたから。
だから、この記事は「これから合格する人」に向けて書いてるつもりはない。「合格したのに、なんか思ってた感じと違うな」と気づき始めてる、当時の俺みたいな人に向けて、書いている。
名前で呼ばれない悔しさ。同い年の先輩を見て「自分はもう手遅れだ」と思う絶望。資格に受かっただけじゃ、何も変わらなかったという肩透かし。もし、いまそれを感じてる人がいたら──俺もそうだった。
そして、そこから2〜3年、休日に職場に顔出して、先輩に教えてもらって、人間関係を地道に作って。気がついたら、「おい実習生」じゃなくて、自分の名前で呼ばれていた。俺は特別なことは何もしてない。ただ、寿司屋を逃げ出したあの時に得た「もう少し踏ん張れていたら別の景色が見えていたかもしれない」という気づきを、二度と忘れなかっただけだ。
合格は通過点。本当の景色は、その先にある
これは、誰かを励ますつもりで書いた話じゃない。ただ、俺はこうだったよ、と残しておきたかっただけだ。
合格した瞬間がピークじゃなくて、合格してから2〜3年の地味な期間に、本当の人生は組み立てられていく。派手な才能がなくても、短期テストで上位を取れなくても、地道に続けていれば、いつの間にか先頭グループにいる。俺みたいな平凡な人間でも、3年浪人の末に入って、実習生扱いされて、それでもなんとかここまで来た。
あなたも、いま、どこかに合格したかもしれない。そして、その合格が「思ってたのと違う」と感じ始めているかもしれない。大丈夫。俺もそうだった。
「おい実習生」――いま、その肩書きで呼ばれているあなたへ。
大丈夫。2〜3年後、必ず自分の名前で呼ばれる日がくる。派手な才能はいらない。要領が悪くてもいい。
ただ、休日に1日だけでも、職場に顔を出してみてくれ。先輩に「すみません、ここ教えてください」と頭を下げてみてくれ。それだけで、景色は確実に変わる。
俺がそうだった。あなたも、必ずそうなる。
俺と一緒に、前を向こう。

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